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コダクローム

コダクローム_b0178335_6282271.jpg コダクローム生産終了のニュースが伝えられた。一つの時代が終わった。

 コダクロームは、米コダック社が1935年に発売したカラーリバーサル(ポジ)フィルムだ。ポジとはネガの反対で、現像したフィルム上にコントラスト・色が反転しない陽画が写るタイプのフィルムのことで、スライドフィルムなどとも呼ばれ、スライドプロジェクターで拡大投影して鑑賞することもできた。

 趣味人だった父親が大型のスライドプロジェクターを所有しており、子供の頃に実家の座敷に大型のスクリーンを掛けて、そこに父親の撮影した風景や人物などの写真を拡大投影して鑑賞した。フィルムには複数のフォーマットがあったが、135mmサイズのスライドフィルムにはいつも紙マウントの上にオレンジの書体で「Kodachrome」の印刷があった。このフィルムは東洋現像所しか現像できず、市内のカメラ店でもその取次ぎをやっているのは限られ、いつも高架下の小さなカメラ店に持って行った。そんな子供の頃の経験からコダクロームは僕の中で特別なフィルムになっていた。

 二十歳前後、東京でカメラマンアシスタントとした働いた時、メインで使っていたフィルムはEPR(エクタクロームプロ)だった。しかし、135mmフォーマットで人物撮影をする時だけはPKR(コダクロームプロ)が使われた。E-6現像のEPRは現像時に増減感が可能で、時には事前にテストロールの上がりを見て本番カットを調整するということが可能だった。しかしPKRはそれができない。露出の決定を任されていたチーフアシスタントの時は、いつも以上に入念に露出を計りその値を決定した。またE-6処理が2時間程度で終了するのに対して、コダクロームのK-14処理は丸一日を要した。なかなか上がりを見られない、もどかしいフィルムでもあったのだ。そういう意味でもコダクロームは僕の中で特別なフィルムだった。

 そのコダクロームが74年の歴史に幕を閉じる。なんとなくだが感慨深いものがある。しかし、僕自身は2004年あたりを境に撮影を100%デジタルにスイッチしている。またFUJIのベルビアが出て以降、リバーサルはベルビア一辺倒だった。最後にコダクロームを使ったのがいつだったのか思い出せない。写真を撮られる方で、同じような経験を持つ人は多いと思う。 

 コダクロームで何か撮ってみたいと思ったのだが、現物の入手は困難であるし、良く考えたら手許にフィルムカメラが無い。そして撮影しても現像することが出来ない。僕のような一時の感傷による懐古趣味で、このフィルムのことを語ってはいけないところまで、状況は追い込まれていたのだ。

 しかしその一方で、デジタル撮影というのは奥が深い。のめり込めばのめりこむほど、その深みにはまってゆく。デジタル撮影である一定の結果を出す為には、長期に渡る自己投資が欠かせない。そういう意味で、僕は比較的早い時期に撮影をデジタル化した自身の選択を支持している。あのタイミングでフィルムを捨てたからこそ、今の自分の撮影スタイルがあるのだ。持てる自身のリソースが少ないからこそ、選択し集中させた。そして今の結果が残っている。コダクローム生産終了のニュースを聞きながら、そんなことを考えていた。

by se-ji0038 | 2009-06-24 07:40 | 写真

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