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別れの時

 環境省の自然保護官O氏が異動となり、本日屋久島を離れた。彼とは2008年の正月に高塚小屋で同宿になったことが縁で知り合い、以来夫婦ともども仲良くさせて貰って来た。とても人の縁を大切にする人で、そのことを端的に表すように、今日も空港まで大勢の人が見送りに集まった。我々も、夫婦で彼の見送りに行った。

 飛行機の出発時刻が近づき、彼はゲートの中に入り手荷物検査を受ける。検査が終わると、その手荷物を持って建物から滑走路へ出たところでこちらへ向き直った。次の瞬間、彼は深く、そして長い別れの一礼をした。

 それは見送りに集まった人達へ向けてと同時に、たぶん屋久島へ向けてのものだと僕には感じられた。こんなにも心のこもった、そして確かな一礼が出来る人は稀だと思う。あの一礼が、彼の人柄の全てを物語っていた。彼がその一礼に乗せた気持ちは、真っ直ぐに見送りに集まった人たちの心を経由し、その背後に聳える屋久島の山々まで届いていた。僕は自分の目頭が熱くなるのを感じていた。

 その後、彼を乗せた飛行機はエンジン音を響かせて、一瞬のうちに僕らの視界の外へ飛び去ってしまった。大切な人が屋久島から離れて行った。

 しかし、と思う。こんな風に、島の生活の中で係わりのあった大切な人を見送るのは、僕の中で初めての経験だ。屋久島へ移住して丸二年。いよいよ、僕らも、そんな経験をする立場になったのだと、不思議な気持ちも同時に湧いてきた出来事だった。

by se-ji0038 | 2009-05-20 17:53 | 日々

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