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撮る人の東京

 小説家、片岡義男さんの写真展「撮る人の東京」が開催されている。会場が新宿のペンタックスフォーラムなので、現場に足を運ぶことは叶わないが、WEBに作品が幾つか掲載されていて、それらを見ることが出来た。

 先日の日記にも書いたが、高校生くらいの時に片岡義男を貪るように読んだ。本棚の一角に現れた赤い背表紙の文庫本は見る間に増殖し、いつしかその一段を占領していた。それはちょうど写真を撮り始めた時期と重なり、活字として取り込んだそのエッセンスは、写真という表現となって体外に放出されていたように思う。だからか、WEBで見た片岡さんの写真に、どことなく懐かしさを感じた。

 当時は父親に借りた露出計の無いNikonF2に50mmの短焦点レンズをつけ、長尺からパトローネに詰め替えたトライXを入れて、街のスナップを撮っていた。ISO感度を半分の200で計算し、1:1に希釈したD76を極力攪拌せずに気泡だけ気をつけ、これまた半分の時間で現像を終える。すると、そこに驚くような超微粒子のネガが出来上がるのだ。それをコンタクトプリントしてデルマで印をつけ、8×10の紙に焼く。紙は主にイルフォードの多階調ペーパーを使っていた。

 写真が面白くて仕方無かった。夏休みにアルバイトして24mmと105mmの短焦点レンズを買った。それからは主に24mmを使って街角スナップを撮った。だからか、いまも僕はワイド系の画角が好きだ。そんな僕の写真の原点は、片岡義男の小説の中にこそあったのかもしれない。

 久しぶりに片岡義男を読んでみたくなった。しかし、本棚を見回しても、そこに赤い背表紙は一冊も無い。屋久島へ移住する際、手持ちの本をバッサリ整理した。その中に、赤い背表紙の文庫本も含まれていた。せめて、「Ten years after (1982年)」は残しておくべきだったか。この小説の舞台は、僕の故郷の長野県松本市なのです。

by se-ji0038 | 2009-05-29 05:47 | 写真

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